代筆者

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 等々力くんは原稿用紙を読みながら、 「短い時間にこんな感想文が書けるなんて、すごいなあ。難しい漢字もいっぱい使っているやん」 と感心しきりであった。  実は私はすでに自分の読書感想文を書き終えていた。  当時、芥川賞を受賞しミリオンセラーになっていた村上龍の『限りなく透明に近いブルー』を背伸びして読み切り、四日間かけて渾身の力を込めて書き上げていたのである。この感想文には「俺はセックスやドラッグが出てくる作品でも平気で読めることができる中学生なんだぞ」という訳のわからない自信に(あふ)れていた。  しかし、中学生がセックスやドラッグに関する本を読んで、訳知り顔で書いている感想文は国語科担当教師に存在すらなかったかのように抹殺された。
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