学園刑事物語 電光石火 中編

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 これを持っていろというのならば、やはり、何かあって金で解決できるなら、これを売って解決せよということだ。今、解決となると、海堂かミリンダであろう。もし売るとすると、この伽羅は、どこで売るのがいいのだろうか。 「……竹田が、弘武にそれを渡したら、説明できないくらいに、ややこしいことを考えると言っていたけど、その表情だと……竹田の当たりだよね」  佳親は、俺の机の椅子に座って俺を観察していた。 「ややこしい?何かあったら、これを売って海堂とミリンダを助けろ、ですよね?」  俺はどんな表情をしているのだろうか。鏡を探すと、寝起きのような顔であった。熱で目が覚めていないようだ。  顔を洗ってみると、やや目が覚めた。 「竹田は、弘武に何も望んでいないよ。ただ、弘武が俺の子だと知って、十五分は叫んでいたね。その後も、思い出しては驚いていた……」  十五分も叫んでいたら、声が出なくなりそうだ。しかも、季子はそんな竹田を全く気にせずに、試作の漢方クッキーを食べさせていたらしい。季子も、ある意味、最強なのかもしれない。 「まあ、風邪を治せ」  佳親が、食べ終わった鍋を持って部屋を出て行った。  俺は、布団に潜ると、春留を探して抱き込んだ。春留は毛皮があるので、温かい。 「春留、この場合は、海堂に事情を聞くか?仏像が何なのか調べるか?ミリンダを探すか?竹田さんに事情を聞くか?」  取り敢えず、全部してみよう。春留は、小さく鳴いていた。春留が鳴くなど珍しいと、手で目の前に持ってくると、春留は眠っていて、春留の腹が鳴っていた。 「……食いしん坊だ」  何となく、春留が他人と思えないのが不思議だ。  翌日、起き上がってみると熱は下がっていた。これならば、部活に行ける。しかし、時計を見ると、いつもの時間は過ぎていた。 「湯沢、起こさなかったな……」  隣の家の湯沢は、いつもは、部活に行く時は誘ってゆくのに、今日は一人で行ってしまったらしい。  慌てて着替えて外に飛び出すと、季子が弁当を持っていた。 「弘武君、お弁当」  俺が起きたタイミングが良く分かったと思うが、俺の部屋には監視カメラもあるので、確認していると言われそうで聞けない。 「ありがとうございます」  俺は弁当を受け取ると、自転車で寺の横の長い階段を降り始める。  しかし、階段の中腹、うっそうとした森の辺りで、名護が立っているのを見つけた。
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