学園刑事物語 電光石火 中編

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「名護、どうしたの?」  俺が自転車を止めると、名護は真剣な表情をしていた。  名護は、四区の最大チームの頂点にいる人物だが、俺よりも一歳年下であった。もしかして、名護は海堂と同じ年になるのか。 「……海堂から、電話がきました。印貢先輩を奪うと……」   これは、海堂に会って、じっくり話した方がいい。俺は、俺であって、誰のものでもない。奪うとか、奪われるとかの存在ではない。 「死霊チームを選んだのは俺だ。海堂は関係ない」  僅かに名護の表情が緩む。  名護を囲むように、木々の影や上から名護の属する死霊チームのメンバーが見ている。死霊チームは、四区の人体実験も絡み、年齢層が低くなるほど、ずば抜けた運動能力を持つ代わりに、人間としての何かが欠けていた。名護を見つめる目は研ぎ澄まされていて、まるで獣に囲まれているようでもあった。  名護は、やや俯くと、何かを呟いていた。 「……名護、どうしたの?」  名護は海堂を知っていた。名護が死霊チームをまとめていた頃、海側をまとめていたのが海堂であったという。 「海堂は、俺にとって、一番の脅威の存在です」  名護の脅威とは、かなり凄いのではないのか。名護は、藤原でさえ脅威などと言った事がない。 「印貢先輩は、俺を選んだ」  名護は階段を眺めてから、俺の顔を見た。名護の表情から、迷いが消えたように見える。 「俺は印貢先輩を渡しません」  名護の顔が近寄ってきたので、俺は手で止める。 「あ、俺、昨日、風邪で寝込んでいたの。風邪が伝染するよ」  でも、名護はキスしてきた。軽く唇が触れあうと離れたが、すぐに又唇を塞がれていた。  やはり、風邪が伝染する。名護に寝込まれたら困るので、ポケットの風邪薬を出した。 「……風邪薬?いつも色気がないのが、すごくそそる。印貢先輩を、ここで、押し倒してしまいたいくらいですよ」  ここ?俺は、階段を見てから、名護を見た。 「名護……百年早いよ」  これ以上は、何もするつもりはない。俺は、名護を離すと、自転車に跨った。 「海堂は、四区の品物を奪い、海賊を名乗っています。盗んだのは一点ではありません」  仏像だけではなかったのか。俺が走り出す足を止めると、名護は口頭で品物の名前を挙げていた。その数は、二十にも及ぶ。 「毎日、盗んでいます。それを売るでもなく、交換条件を言ってきました。印貢先輩と引き換えに返すと」
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