学園刑事物語 電光石火 中編

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 藤原は、かなり怒ったが、盗まれた当事者達は、それでかたがつくのならば、そうしようなどの話も出してきた。  しかし、四区で天狗を相手に渡すことは、今までの信頼関係が崩れる事を意味していた。 「そうか、だから、藤原も俺に監視をつけても、俺に何も言えなかった」  藤原もかっこつけるので、四区の問題を俺へは言えない性分であった。 「……藤原先輩の事は、すぐに理解するのですね」  僅かに眉を下げ、困ったように名護が笑う。 「でも、俺は引きません」  名護は、藤原とは違うタイプであるが、やはり君臨する王者という貫禄がある。こうやって、顔を上げて前を向いている名護は、流石に五百人を超える人数を束ねている、カリスマであった。 「死霊チーム!全力で、守れ。印貢先輩は俺たちの天狗だ。誰であっても渡すな!これは俺たちのモンだ!」  どこかから、声が聞こえてくると、次に、森全体が揺れていた。そんな人数が、ここにいたのか。  それに、名護の言葉がやや荒いような気もする。どこか、名護と海堂は、個人的な何かがあったと感じる。  名護は、にっこりと笑うと、軽く俺にキスして手を振った。 「いってらっしゃい!全力で、死霊チームは印貢先輩を守ります!印貢先輩に危害を加える者は、皆殺しにします」 「皆殺しはやめて……」  名護は、本当に皆殺しにしそうで笑えない。それに、木々の上から来る視線に、本気で殺気があった。 「絶対に守れ!!」  再び、周囲の木々どころか、天神の森が揺れていた。でも、声はなく、地響きだけで返事をしてくるのが怖い。人間を相手にしているという感じがないのだ。 「…………」  守りますというが、その方が身の危険を感じるのは、何故なのだ。 「名護、じっくり話し合おうな。でも、その前に海堂と話すか……」  まず、子供達に会話を教えよう。地響きで返事をさせないようにしたい。 「だから……俺は、印貢先輩を海堂には渡しません。会うのならば、俺も同席します」  同席ならばいいのか。ならば、名護にも連絡しよう。 「じゃ、学校に行く」  自転車で階段を駆け下り、振り返ると、天神の森のあちこち、木々の枝の影から、子供達が俺を見ていた。これは、ホラーよりも怖い景色であった。  あり得ない高さや、位置にまで、子供の顔が浮かんでいるのだ。
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