学園刑事物語 電光石火 中編

2/107
52人が本棚に入れています
本棚に追加
/107ページ
学園刑事物語 電光石火 中編 第一章 海の上の空  季節は夏に近付き、すっかり暑くなってきたというのに、俺は風邪をひいてしまった。 「印貢、病院に行け。くしゃみがうるさくて寝ていられない」  何度も教室でくしゃみをしていると、隣の席に座っている、相澤が嫌な顔をしていた。この相澤は、高校一年の教室に生徒として座っているが、実は高校生ではない。  相澤は、高校に潜入し、隠蔽されがちな学校という組織の中で何が起こっているのかリサーチしている刑事であった。相澤は、潜入捜査しているといっても、特定の事件を追っているわけではないので、結構、のんびりとしていた。  相澤がこの教室に潜入した、理由の一つが相澤曰く自覚のない問題児の俺であった。犯罪があると、俺の影があったので、いっそ隣の席に座ってしまえとなったらしい。俺は、好きで犯罪に顔を突っ込んでしまうのではない。気が付くと、巻き込まれているのだ。 「相澤さん、天神区には病院がないのですよ……。四区に行くか、港側に出るかですから、遠くて……」  この四区と呼ばれる土地、本当の地区名は天神四区となる。四区は港に面した限られた土地だが、様々な状況により昔から警察の介入ができていない土地であった。  四区で発生した事件は、四区で制裁する。しかし、その犯罪区のような四区にも、小学校から高校まである。相澤も、四区に潜入するには、あれこれ問題が多く、又、命の危険もあるのでできなかったらしい。相澤は俺と同じ、天神三区にある公立高校に通っていた。  天神区とだけ呼ばれる土地は、山の上の一角のみで、寺社と参道しかない場所であった。俺は、その天神区に住んでいる。  相澤は、机に突っ伏して眠っていたが、顔を上げて俺を見た。 「馬鹿は風邪ひかないと言うけどな……印貢も風邪をひくのか」  どう意味なのか。確かに俺は、ある意味、馬鹿をいつも連呼される。 「俺の安眠のために、印貢は、絶対に四区の病院へは行くな!」  相澤は眠そうであったが、妙にきっぱりと俺に忠告していた。 「はい。でも、考えてみると、俺の家って漢方ですけど、薬局ですよね。風邪薬はあるかな……」 「……そうだね、薬局だったね」  相澤が長い溜息をついていた。
/107ページ

最初のコメントを投稿しよう!