学園刑事物語 電光石火 中編

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 しかし、季子は事前に話をしていたらしい。しかも、予約までされていた。 「風邪ですけどね」  看護士に、外科の連行されてしまった。 「おや、大きくなったね。病院嫌いなんだってね。はい、お腹を見せてね」  三年前の怪我の具合やら、他の傷の具合を確認されてしまった。 「はい、次は小児科に行ってね」  俺は、必死に首を振った。俺は小児科ではない。 「俺は……内科です」  自分で内科に行くと、やっと風邪の診療を受けた。 「扁桃腺も晴れているね。処方箋を出しておくよ。高熱が出たら、座薬も出しておくから使用しなさい」  座薬というのは、もしかして、尻から入れるアレなのか。俺は、座薬は必要ないと、手を振ってみた。 「……座薬はいりません」 「はい、終了ね」  俺は、今日はとことん無視されている。  仕方なく会計に向かうと、椅子にへたりこんでしまった。  座薬はないだろう。そんなのを見せたら、佳親はバカ受けするに決まっている。  病院は三階まで吹き抜けで、正面は全てガラスであった。窓には夕暮れの空が、大きく見えていた。俺は、夕暮れを見てから、目に手を当てて半分眠ってしまった。 「印貢さん」  名前を呼ばれて立ち上がろうとすると、大きな影が前に在った。正面に人が歩いていたのに、俺は立ち上がろうとしてしまったのか。慌てて座り直すと、前の人間が立ち止まっていた。 「印貢……さん」  それは俺の名字で、俺を知っているのだろうか。  俺が、立ち止まった人を見上げると、相手の左の横顔に大きな傷を見た。顔から首、首から下へと怪我が続いている。すると服の下は見えないが、肩から首を抜け、顎に至るまでの切られた傷なのであろう。 「……今も金色の目ですね」  声は低く、顔がシルエットになってしまいよく見えない。でも、分かる。 「……海堂、なのか?」  この病院で最後に見てから、そのまま行方不明になっていた海堂がそこに居た。 「あ、会計……」  俺の名前を何度も呼ばれているので、慌てて会計を済ますと、再び海堂の姿を探した。海堂は、やや左足を引き摺りながら、病院の外に出る所であった。 「海堂、待って!」  俺は、海堂を走って追いかけたが、人混みに見失いそうになった。風邪のせいなのか、足元がふらついてしまう。自動ドアを出ると、庭の木に手をついて、ふらつきをやり過ごそうとした。しかし、走ったせいなのか、尚、酷くなっていた。 「海堂!」
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