学園刑事物語 電光石火 中編

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 構わずに走ろうとして、足がもつれ転びそうになったところに、腕が伸びてきた。 「……印貢さん。危なっかしいですね」  転ばずに済んだが、海堂は随分と背が高くなっていた。俺の背を越している。 「海堂、俺の背を越したのか……」 「あの……出会った時も、俺の方が背は高かったですが……」  海堂は一歳年下だったはず。俺の方が背が高かっただろう。 「竹田さんも帰っているの?」  海堂は俺を立たせると、薬局を探してくれていた。俺は、処方箋を握り締めていたが、薬を貰うのはすっかり忘れていた。 「竹田さんは、時々、四区に帰っていますよ。よく印貢さんの様子を教えて貰いました。今回も帰っています」  竹田が帰っているのならば、まだ安心できる。海堂は、四区で問題を起こし追われていたのだ。 「海堂。四区とは話を付けたのか?」  夕日の中で、海堂が笑っていた。その笑いは、楽しい笑顔というのではなく、どこか狂気を纏っていた。 「俺は四区と和解しに来たのではなく、四区を潰しに来ました」  楽しそうに言うが、楽しい内容ではない。 「印貢さんを、藤原と死霊が奪った。最初に見つけたのは、俺たちなのに」  俺たちということは、海堂は一人ではないのか。 「海堂、四区と和解しよう」  俺にも策は何もないが、海堂だけが悪かったのではない。どうにか、手打ちにしたいものだ。 「……印貢さん、本当に変わりませんね」  俺は海堂を見上げてから、自分の手足を見た。俺も、かなり成長したかと思う。もう昔のチビではない。 「いや、中身がという意味です。姿は、絶望したくなる位に、綺麗になりました。想像していたのは、もっと普通の少年でしたけど、本物は天神の天狗のまんまでしたね。綺麗で強くて、優しい……」  俺は、綺麗とは言われない。服が洗濯してある綺麗という意味であろうか。いつも、洗濯が間に合わなくなると、まだましな物を拾って着ているが、確かに今日は病院に行くので洗濯済で揃えた。 「海堂、今までどこにいたの?」  親もなく、四区も追われた海堂が苦労してきたとは、表情で分かる。同じ年の子供と比べると全く異なり、迫力があった。 「それは、言えません。印貢さんも、言えない過去があるでしょう」  言えない過去を背負ったということか。俺が下を向くと、海堂が俺を腕に抱き込んだ。
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