学園刑事物語 電光石火 中編

8/107
前へ
/107ページ
次へ
 薬局の椅子に座ると、難波も横に座っていた。 「海堂は絶対に印貢さんに会いにくると、藤原は踏んでいました」 「あの、呼びつけでいいです。後輩ですから」  藤原の感は当たっていたが、海堂は見張りを知っていて会いに来ていたように感じる。どっちが上手なのかは分からない。 「藤原は、海堂は印貢に危害を加えないけど、印貢を奪おうとしていると言っていました」  奪うも何も、俺は自分の意思で動く。 「何を盗まれたの?」  藤原家は薬物を嫌っているので、一体何を密輸したのだろうか。 「仏像です」  仏像というのは、寺にある本尊のようなものであろうか。 「盗品なのか?」  正規ルートで運べない物ではない。 「そうです。盗まれたのを、奪い返してきたのです。闇ルートでね。でも、入手も闇ルート品だったので、盗まれたとも言えなかった代物です」  四区の裏事情ならば、俺は口出ししない。でも、仏像など、何故、海堂は盗んだのだろうか。換金しにくい上に、保管にも運搬にも手間がかかる。 「……仏像ね」  窓口で薬と受け取ると、表に季子が立っていた。難波は、季子に丁寧に挨拶すると、去って行ってしまった。 「弘武君、帰りますよ。途中で、弘武君の好物のどら焼きを買いましょうか」  どら焼きが好物なのではない。でも、焼きたてを思い浮かべ、腹が鳴ってしまった。 「他に、弘武君はお豆腐も好きよね。湯豆腐にしようかな」  初夏に湯豆腐もないが、確かに豆腐は好きであった。  車に乗り込むと、藤原に電話を掛けようとして止めた。俺に何も言わずに、難波に頼んでいたということに腹が立つ。俺がどのように海堂と知り合っていて、結果、どうなってしまったかは藤原も知っていたはずだ。  でも、だから藤原は俺に何も言わなかったのかもしれない。海堂が戻ってきていると知れば、俺は必ず探しに行くだろう。 「弘武君、どうだった?」 「風邪です。薬も受け取りました」  薬の袋を見ると、座薬が見えてしまった。座薬は、後でゴミ箱に捨てておこう。こんなものがあったら、安眠できない。 「弘武君、夏に弱いのよね。毎年、夏には倒れる程の何かをするしね」  俺は、どういう意味で夏に弱いのだろうか。 第二章 海の上の空 二  家に戻ると、取り敢えず布団に横になった。俺の部屋は、漢方薬局の裏にある倉庫の三階で、ほぼ一人暮らしの状態であった。
/107ページ

最初のコメントを投稿しよう!

52人が本棚に入れています
本棚に追加