学園刑事物語 電光石火 中編

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 まだ親子と知らなかった頃に、俺は、家賃を払ってこの部屋に住み始めた。  寝転んで休んでから、服を着たままであったので脱ぐとハンガーにかけた。風呂は無理だとしても、シャワーは浴びたい。  着替えのついでにシャワーを浴びると、机の上に置いた薬袋が目に入った。 「そうだ、捨てておこう」  薬袋の中から、座薬を出すとゴミ箱に捨てる。  さて眠るかと横になろうとすると、階段を登ってくる音がしていた。足音からすると、佳親のようであった。 「弘武、風邪は大丈夫か?季子が湯豆腐を持って行けって」  ドアを開く前から、佳親が喋っていた。俺は、仕方なく歩くとドアを開けた。 「弘武、風邪でシャワー浴びるなって。風邪が酷くなるだろ」  佳親は、部屋に入ると湯豆腐をテーブルの上に置いた。それから、迷わずにゴミ箱の中を覗くと座薬を拾い、薬袋の中に戻した。  何となく、俺のやる事はお見通しのようだ。 「それで、弘武。海堂に会ったのか?」  嘘をついても仕方が無いので、湯豆腐を食べるついでに頷いた。 「海堂はね、竹田も追っている。向こうでミリンダが行方不明になって、海堂が日本に戻って来た。海堂は、ミリンダの何かを知っていると、竹田はふんでいる」  海堂は、竹田と日本に来たのではなかったのか。 「海堂は仏像も奪っていてね、四区に喧嘩を売っている……」  仏像は、竹田が奪い返したもので、竹田もそういう面でも海堂を追っていた。でも、海堂は竹田に恩義があるので、裏切るとも思えない。何か理由がありそうだった。  俺は、湯豆腐を食べると、髪の毛を乾かした。その様子を、佳親がじっと見ていた。 「弘武も、きっと大きくなっているのだろうな……でも、毎日、見ていると分からないものだな。竹田が来て、弘武は全然変わらないとも言っていたけど」  竹田が来ていたのか。佳親は、竹田の土産だと、木で彫った魔除けのようなものをくれた。いい香りがするので、匂いをかいでみると、伽羅ではないのだろうか。  高価な木に、こんな顔のようなものを付けていいものなのか。でも、不正輸入の目くらましなのかもしれない。あまりに下手な彫り物の人形で、価値があるようには思えない。でも、香木としては、非常に高価なものだった。
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