第一章 海の上の空

11/25
前へ
/401ページ
次へ
 俺が慌てて走ると、季子が心配して寄ってきた。 「弘武君、足がふらついているじゃない。走らなくてもいいよ」  ふらついているのか、足元がふわふわしていた。 「はい。すいません……」  車に乗り込むと、季子は大きな病院に連れて行ってくれた。 「ここって、前に俺が入院した病院ですね」  貨物ではなく、客船の止まる港に面して病院が建っていた。 まるで高級マンションのようで、ガラス貼りのロビーの上には、 コーヒーショップが見えていた。 「そうね。西新町の方は駅前でいいけど、弘武君のカルテはここにあるからね」  三年前、喧嘩で怪我をして、この病院に入院した。 当時の記憶が甦ってきて、通路にはあの日から会っていない海堂の、 流した血の筋が残っている気もした。
/401ページ

最初のコメントを投稿しよう!

174人が本棚に入れています
本棚に追加