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「ギャァアアッ!」
缶詰を開けようとした途端に叫び声が聞こえた。それも缶詰の中から。
たった今、缶切りの刃を入れた瞬間の出来事だ。
あたしは驚きのあまり、缶詰を開ける姿勢のまま硬直してしまった。それはそうだろう、なんせ缶詰の中から叫び声が聞こえたのだから……
そもそも、この缶詰は中身が分からない。
戸棚を整理していたら、ラベルが剥がれた缶詰が出てきたので、興味本位で開けてみたら、叫び声が聞こえたのだ。
缶詰の上部には賞味期限らしき数字が印字されている。
日付けは二十八年前なので、もしかしたら製造年月日かもしれない。
気味が悪いとは思いつつも、好奇心を抑えきれず、グイッと缶切りの刃を切り進める。
「ンッゴゥアッ……」
また缶詰の中から声が響く。
でも二度目なのでそれほど驚かなかった。人間は何にでも慣れる生物らしい。まだ不信感は消えていないけど、とりあえず缶詰に向かって話しかけてみる。
「中に誰か居るの?」
「居るに決まっとるやろ、ボケェ!」
関西弁だ。関西のおっさんが缶詰の中にいる。あたしは思わず興奮してしまった。
「あっ、あの~、ごめんなさい。何の缶詰か分からなかったものですから……」
「ラベル見りゃ分かるやろハゲ。『おっさん缶詰・関西風味』って文字が読めんのか!」
「いや、その、違うんです。ラベルが剥がれちゃってるんです」
「なんやお前、中身も分からずに開けようとしとったんかいな。けったいな女やでぇ~」
「ちょっと待って下さい。缶詰の中に生きた人間が入れるわけないです。けったいなのはそちらの方だし、そもそもおっさん缶詰なんて聞いたこともなけりゃ、買った記憶もありません」
「グチャグチャ言うな、いいからサッサと、こっから出せ!」
あたしはカチンときた。そして、このような場面ではいつもより冷静になるタイプなので、無言でトンカチとアイスピックを用意してから、ゆっくりとおっさんに話しかける。
「缶詰ってことは、あなた食べ物なんですよね?」
「あほぬかせっ、長期保存されとっただけじゃ。誰が食いもんやねん!」
あたしはその返答を無視して、缶詰の中央にアイスピックを立ててから、それをトンカチでぶっ叩いた。
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