1章

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「長い話になるし、結衣ちゃんの家族みんなにも、知っておいてもらったほうがいいことなんだ。……案内してもらっても、構わないかな?」  思考すること数秒。フル回転した頭は「ここではどのみち逃げられない」と答えを出した。実は結衣自身が一番「彼の話を聞いてみたい」と強く願っていたから、という好奇心に裏打ちされた贔屓目は、こっそりと見ないふりをした。  男はまた少しだけ耳に痛い音をさせる。すると、兄がぱちりと目を覚ました。特に変わったところもないらしく、何が起きたのかよく分からないと言ったふうに首を傾げている。軽い貧血だね、と男は言ったけれど、結衣に限って言えば嘘だというのはバレバレだった。ただ、「身体、なんともない?」とだけ尋ねておいた。あぁ、ごめんな、と兄は結衣の頭をいつものようになでてくれた。  そうして、今。両親と兄と自分の四人を前にして、男はゆっくりと、「非日常」について語りだしたのだった。  この世界には、「レネゲイドウイルス」という未知のウイルスがいること、そのウイルスに感染し、「覚醒」したものは特別な力を得た、「オーヴァード」と呼ばれる存在になるのだという。有り体に言えば超能力者だね、と男は言った。そして、結衣の頭脳はそのレネゲイドのおかげであるのだという。  この説明をしてくれた男は、「UGNの柿崎」と名乗った。  結衣は覚醒してオーヴァードになったが、変わったことといえば超人的な頭脳と驚異的な回復力くらいのものだった。けれど、彼女以外のオーヴァードは、身体が変形したり炎や電気を操ったりと、よくあるSFやファンタジーのような異能力を持っているものもいる。  『非日常』を歩むオーヴァードと、『日常』を歩む非オーヴァード。そんな両者が共存できる社会を作るために、ひとつの団体が出来上がった。  「ユニバーサル・ガーディアン・ネットワーク」通称「UGN」と呼ばれる団体だった。柿崎は、ここから結衣の噂を聞きつけて派遣されてきたのだという。  そして、彼は本題を話しだす。結衣にもその「UGN」へ入らないか、というのだ。  結衣は身じろぎもせず、柿崎の話をずっと正面で聞いていた。一度も目をそらさず、集中力も切らさずに。
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