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ヘッドセットから響く監督、ロカルドの声は焦燥を含んでいた。
『レイ、一度だけでいい。ピットに戻ってくれ!ギアが今のままじゃ全ていかれちまうだろ!』
じっとりと汗を感じるフルフェイスヘルメットの中から、静かに路面を見つめギアを強引に叩き込む。
3速、4速…、2速も危ないか。幸いこのコースはストップ&ゴーのコースだ。1速と567足が生きていれば、まだいける。
静かに心の中で計算していく。
魔物がその漆黒の羽根をちらつかせるように、アスファルトが黒い照り返しをバイザーに刻んでくる。それでも怜は落ち着いた声で返していた。
今ここで冷静さを失ったら、待っているのはマシンがただ単に止まるだけではない。コンクリートウォールに時速300キロを超えて突っ込むだけだ。
「ロカルド、そんな時間は何処にもない。幸いギアボックスはいかれているが、エンジンは生きている。最悪のマシンだがまだ走れる」
返した喉がかすかにひりついて、痛みを伴った。
『バカを言うな!リタイアしたら元も子もないんだぞ!ギアのダメージでブレーキパットの磨耗率も高い!ヘアピンカーブで突っ込んだらどうするつもりだ』
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