第1章

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「しないさ。あと10周もたせてみせる。せめて今のポジションのままフィニッシュしたい」  現在6位。8点稼げるか、それとも順位が下がり7位で6点となってしまうか。ピットに入れば7位どころか10位にも入れなくなるだろう。  テクニカルコースではキッチリ追い上げてくる後方にピタリとついてきているマシンをミラー越しに見乍ら、ストレートに入ると怜は思い切りよく引き離した。解き放たれた黒豹の様に雄々しくも野性的な走りで、ぴたりと食いついている車から逃げおおせる。  エンジンの性能では、怜の乗っているBBRCに軍配が上がる。直線のコースで生かしてやれば辛うじてスピードは出た。  だが、マシンの性能はガタガタであるが故に、またシケインで追いつかれ、プレッシャーをかけられる。  チームはマシントラブルを抱えた怜と、後方に位置しているベテランドライバーの攻防を、じっと息を詰めて見守っていた。インカムをしたまま、監督のロカルドは諦めに似た、祈りにもの表情でレースを見つめている。  チームのセカンドドライバーである、ルッティは現在16位。もはや戦いは怜のみが行っているようなものだった。
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