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「ここで座って待ってて。お父様を呼んでくるから」
敬一君がそう言って、僕に背を向けた。
「うん」
ドアが閉められると、僕はアンティークでフカフカの刺繍入りソファーに、ドサッと落ちるように座り、ため息をついた。
はぁー……。明日学校どうするんだろ。船が直らなければ、どうにも出来ないか。どうにも出来ないなら、いっその事、このセレブの素敵な暮らしを楽しめばいいのだろうか。
「失礼します」
ドアがキィッと音を立て開くと、トレイにティーカップを乗せた美しい女性が立っていた。
「災難でしたね」
「あっ、はい」
僕はソファーに足を揃えて座り直した。
この人、本気のメイド服だ。本物のメイドが制服として着るメイド服を初めて見た。
「私は使用人の如月です。船が直らなくても食料や生活用品は後3ヶ月分くらいありますから、どうぞ心配なさらないで下さいね」
「はい……」
冗談じゃないよ。いくらなんでも3ヶ月もここにいないよ。でも、僕がここにいる事を知ってる人間は本土に一人もいない。
僕は不安になる。いやいや、落ち着け。敬一君だって消息不明になる訳だから、2人も揃っていなくなれば、いずれこの島も捜索されるだろう。
しかし、ネットも電話も使えない島に住んでいる敬一君のお父さんは変わり者だ。どんな顔をしているんだろう。
考え事をしていたら、紅茶を持って来てくれた如月さんは、いつの間にか部屋を出ていってしまっていた。
むつき、きさらぎ、ん? 日本生まれ、カナダ育ちの僕にはピンと来ないけど……。
「葵君、入るよ」
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