21人が本棚に入れています
本棚に追加
敬一君の声だ。
「はい」
僕が返事をすると、ドアが開き、敬一君と白衣を着た見知らぬ男性が入って来た。この人が敬一君のお父さんか。
「君が敬一の友達の小林葵君か。話はかねがね聞いてるよ」
「はい……」
僕は立ち上がって、2人を見た。
「まぁ、座りなさい」
敬一君のお父さんが僕に声をかける。
糸のように細い目を持った背の低い陰気な顔付きと声の男性。そんな第一印象だった。
「はい」
僕はソファーにちょこんとお尻を乗せ、浅く座って姿勢を正した。
「敬一が君に迷惑をかけてしまってすまなかったね」
暗い印象だが、肌は血色が良く、明るく艶やかで、どう見てもハタチそこそこの青年にしか見えない。とてもC学2年生の父親の外見じゃない。
ただ、青年らしく内側から自然と溢れ出るような快活さはなく、内側から感じるのは老人のような枯れた落ち着きだった。
「はい」
僕は不思議に思いながら返事をした。
「敬一も謝りなさい」
「葵君、本当にごめんなさい」
「もういいよ。いくら謝られたって、船が直るのを待つか、外からの救助を待つ事しか誰も出来ないんだから……」
気持ちの余裕の無さから、僕は何だかイヤミな言い方をしてしまった。言ってから後悔する。
最初のコメントを投稿しよう!