近くて遠いあなたとの距離

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『ま』 窓枠に切り取られた景色。 それは大小様々なスクリーンのように、 人間の人生を見せてくれる。 「また夏休みになったら遊びに来るからね!」 「背も、もっともっと大きくなってるからね!」 「あのね。おばあちゃん!大好きだよ!元気でね!」 子供たちが老人にぎゅっと抱きつき、母親に連れられて電車に乗り込む。 徐々にスピードをあげる列車に向かって満面の笑みを浮かべていた老婆が、 完全に電車が見えなくなった後にそっと、溢れる涙を拭う。 『た』 黄昏時の校門でのひととき。 それは誰しもが懐かしく愛おしく思う、かけがえのない青春。 「そろそろバイト行かないと」 「え、シフト増やしたの?なんで?」 「別に。じゃーな」 男は愛想なく、長い足でどんどん反対方向に歩いていく。 長くなっていく影を眺めながら手を振っていた女が、 思考の読めないオトコに淋しさを感じて溜息をひとつ。 『ね』 猫たちが月明かりに集う夜。 それは賑やかなようで切なく悲しい、 この世を去ったものとの別れ。 「それでは、今から新たな長老を決める」 「強く逞しい俺こそが相応しい!」 「知的で洗練されたあたしだよ!」 猫たちは毛を逆立て、互いに威嚇し牽制しあう。 それをいちばん遠く、木の上から醒めた瞳で眺める黒猫が、 かつて誰からも好かれ愛されていた長老へ静かな祈りを捧げる。 『またね』 それはとても優しい言葉。 大切な誰かへの 再会の約束。 その一言さえあれば 世の中捨てたものじゃない そんな気がしてくる。
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