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「こちらこそ、よろしくお願いします。衣川(きぬがわ)くん、ぼくよりずっとしっかりしてるから、助けられているのはぼくの方なんですよ。いつも感謝してます」
母さんの頬が少し赤くなった。母さんは、ぼくのハンサムな恋人、健人のことが大好きなのだ。
「もう南澤くん、直哉(なおや)にお世辞なんて使わなくていいのよ。ほんと良く出来た子ねぇ。うちの息子になってほしいくらい。南澤くんさえよかったら、お正月も遊びにきてね。美味しいものいっぱい用意して待ってるから」
「はい、ありがとうございます」
ぼくが母さんを睨むと、母さんは肩をすくめていそいそと部屋を出て行った。
きみは目を覆うほどの前髪をヘアピンで止めると、いただきますといって手を合わせる。さっそく年越し蕎麦の出汁をすすった。
「うまーい」
海老天をサクッと頬張る。
「一尾はすぐ食べる。もうひとつは出汁にひたひたにして食べる」
きみはわけのわからないこだわりを語るけど、ぼくはそれを無視していった。
「健人、母さんに愛想良すぎ」
きみはぼくの母さんのことを綺麗で可愛いとかいうけど、ぼくにはそれが少し気に入らなかったのだ。きみは蕎麦をズルズルと食べると一旦手を休めた。
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