味覚の領域

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シェフとオーナーのあまりの絶讚ぶりに、他のスタッフも我先にと男の料理を食べていった。 みな、シェフと同じように涙を流し、膝から崩れ落ちた。 シェフ「オーナー、これは認めるしかないんじゃないですか?この才能を他の店に持っていかれれば大きな損失ですよ!」 オーナー「やむを得ん、クビは無し、今日からお前はメインシェフだ。」 男「え!?メインシェフ?、、、や、や、やったぁ!!」 オーナー「あぁ、こいつが作るパスタより明らかに旨いからな。」 シェフ「そうですね。私も負けられません、精進します。」 その後、男がつくる料理は来店するすべての客に大好評となり、たちまち店は半年後には三つ星レストランとして、ミシュランガイドに載ることになるだろうと噂されていた。 半年の月日が流れ、男は自分の功績を盾に元のオーナーを解任させ、自分がシェフ兼オーナーの位置に付き、事実上店のトップに登り詰めた。 ある夜、男は一人で料理の試作をしていた。 男「クックック笑いが止まらない!こんなクソ不味い料理が全世界でトップクラスの料理と言われるなんて!調理法もデタラメ食材も最悪のもの、なのにみんな旨い旨いと家畜のようにむさぼり食うんだ。この世界は狂ってるな。あ、そうだ。あの初老の男のお陰かなこりゃ、逆転の発想まさにその通りだった!」 男は初老の男が元オーナーから聞いたという言葉を思い出していた。 (あいつの味覚は私たちとは真逆なんですよ!) 男「そう、真逆なんだ!俺が旨いと思うものはあいつらは不味いと言う!なら不味いものを作れば旨いと言うんだ!ホントに不味い飯さまさまだぜ!」 男は試作が終わると、ワインセラーから1本取りだし、グラスに注ぎ入れ、ソファーに座り、独り言を続けた。 男「もっと、もっとだ、もっと俺の料理で金を稼ぐんだ。忙しくなる、さらに不味い、ゲテモノを使った料理を客に出してやる。フ、フハハハハ」 男は金に目が眩み料理というもの自体を忘れそうになっていた、この逆転の奇跡がそう永くは続かないことなど、知らずに。
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