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思えば、俺の恋愛経験値はとても浅い。
とくに相思相愛なんて関係は、正直1度も経験が無いのだから当たり前だ。
ずっと1人だけを想ってきたから、他の人を好きになるなんて無理だと思っていた。
このまま一生1人でもいいかな、なんて最近は諦めモードに突入している。
ただ――
気にかかるのは、やはり果夏のことだった。
こんな事になっても、果夏が幸せになる事を俺は望んでいる。
本当に馬鹿だとは思うけれど、今となってはせめてもの願いなのだ。
渡辺が言うように、もし櫻井が果夏に別れを告げなけらばならない理由があったのだとしても、果夏を泣かせた事は許せない。
でも……それと同時に話してみたいと思った。
トラウマを抱えた果夏が、あれ程までに心を奪われた男と。
あの夏から季節は移ろい、街路樹の葉は辛子色へ色を変えていた。
「クリスマス?」
今日もあと数10分で日付が変わろうとするまで仕事をしてから家路を急ぐ。
俺は人気も疎らな大通りでさえこちゃんと電話で会話していた。
『うん、先輩がね……飲みに行きたいって言うんだよね。男子と』
「先輩? 職場の……だよな?」
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