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「え?」 「よく言う影武者ってヤツですよ。あれね、都市伝説なんかじゃないんです」 そう言うと目の前の彼はにっこりと笑って「本番当日の数時間前に、本物がこんな所フラフラと歩いているなんて普通はあり得ないでしょ?」と納得がいかない私に言葉をかける。 「まあ確かに....でも本当によく似てる」 「プロの影武者ですから」 「でも影武者って、何するの?」 「大したことはしてないよ。カガヤって元々体が弱いんです。だから体調崩したら代わりに雑誌の撮影とか簡単な会見とかファンミーティング、イベントぐらいなら代役になる程度。」 「え、凄くない?大したことあるって」 「あはは、ありがと」 そう言って笑うその表情もテレビなどで見かけるカガヤの顔とまるで変わらなくて、何処か不思議な気持ちになる。 「キミ、名前は?」 「えっ?」 きらきらとした目で名前を問われ警戒心の強い私は咄嗟のことに驚きながらどう答えようかと思考を巡らせる。 例え影武者と言えども芸能界の人間に、しかも初対面の人物に簡単に本名を教えるのも何となく嫌な気がーー、そうだ。 「ロシコ」 「ん?ろしこちゃん?で良いのかな?」 「呼び捨てで良いよ。そのままロシコで」 皮肉にもこのあだ名がこんな所で活用されるとは。 少しだけ幼馴染に感謝をする。 「そっか、ねえロシコ。せっかくだし何処か遊び行かない?俺もライブの時間まで暇なんだよね」 「え、ライブ出るの?」 「ううん。影武者は大きなライブやイベントには代用出来ないから。でも勉強になるし今後の為に見ておけって関係者席用意されるんだよ」 「でもその見た目、遊びになんか行ったら絶対騒がれるよ?」 「大丈夫。人気のない穴場に行くから」 そう言うと彼は目を輝かせながらゆっくりと手を差し出した。って、おい。漫画やアニメの主人公じゃないんだから。心の中で突っ込みを入れながらもその綺麗な指先は何のいやらしさも下心も持たずにただ純粋に私の手がそこに降りてくるのを待っているようだった。 「....人気のない場所って、怪しい所じゃないでしょうね」 「さあ?どうだろ」 恐る恐る伸ばされた私の手をぎゅっと握りしめるとにっこりとそう答える。 普段の私なら警戒して絶対にその手を取ることなんてしないのに、何故だろう、目の前の彼にはそんな黒い気持ちすら抱かせないようなきれいな何かが存在していたのだーー。 「行こう ロシコ」
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