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親愛なる碧香さま
その後、いかがお過ごしですか。
碧香さまとお別れしてから、さほど時が経っていないというのに、とても長い歳月が過ぎたような気がします。碧香さまがいらっしゃらない生活が、こんなにも寂しく味気ないものとは思っても見ませんでした。
昨日、私を大妃殿に連れて行った負商のおじさんが家に来たので、何気なく、碧香さまの御実家を知っているか訊いてみました。そしたら、
「京師で徐大監のお屋敷を知らぬものはいないよ。わしもあのお屋敷の下男とちょっとした知り合いでね」
と言うではありませんか。そこで、手紙を届けてくれないかとお願いしたところ二つ返事で応じてくれました。ということで碧香さまにお手紙を書いています。ただ紙は高価で、また鄙地では手に入れるのが難しいので、端切れに書いています。御無礼どうぞお許し下さい。
さて、私の今の生活はけっして悪いものではありません。実家は私が大妃殿に行く前とは比べものにならないほど、豊かになりました。食べることはもちろんのこと、家も大きく立派なものになりました。野良仕事はほとんど使用人がするようになり、家事は母と弟嫂(弟の嫁)が全てするので私の出る幕はありません。上の弟・子石は結婚したのです。家に来てから知ったのでびっくりしました。
こんな状況なので、私は何もすることがありません。なので、お針をしたり、子石が書堂(寺子屋)だか、どこかで借りてきてくれる書物を読んで過ごしています。
お針をしている時は碧香さまのことを思い出します。
大妃殿の宿所で初めて碧香さまにお会いした時、こんな綺麗な人がこの世に存在していたことにとても驚きました。私の周りにいた村の女性たちは皆、髪を簡単に纏め、土埃に染まった白い上着と下裳を身に着け、顔は日に焼けて浅黒く、肌は荒れていました。村を出て京師に入って出会った女性たちは、身奇麗で髪も艶やかで、肌も白くて仙女のように見えました。大妃殿の女性たちに至っては自分と同じ人間とは思えないようでした。こうした女性たちを眺めながら、きれいに洗濯はしてあるけれど粗末な衣服を着て髪も肌も荒れてみすぼらしい自分が果たしてここでやっていけるのかとても不安になりました。さいわい衣服の方は規定のものを頂けましたが、肌や髪はどうにもなりません。
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