第一章 幼い頃

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私は自分が嫌いだった。 私は幼い時から引っ込み思案で、人見知りで黒縁の眼鏡を掛け、 出来れば誰とも接したくないから、いつも下向いて歩く。 なるべく目立ちたくないし、その風景の中に紛れていたいと思うのだ。 他人からは「静かな子なのね。」と言われていたが、 その言葉が幼い頃の私には「意思のない子」と言われているような気がして、 もはや人と接する時、何を話せばいいか分からず、ただ時間が過ぎるのを待ち、 相手が話しかけてくるまで上手く話せない。 母には「自分の口できちんと話しなさい。」と言われるのがしょっちゅうで、 その口癖を言われるたびにどんどん萎縮していくのだ。 学校では、いつも授業で当てられないように先生の目を見ないように努力し、 万が一当てられてしまったとしたら、 本当に聞き取れるか聞き取れないかくらいの声で話す。 だから、先生からはいつも「もう少し大きい声で。」と言われてしまうのだ。 常に自信を持つことのできない自分が嫌いで嫌いで仕方がない。 それが小さい時の私だった。  そんな私の唯一の楽しみといえば、小説を読むことだった。 小説を読んでいれば、ツマラナイ日常や目を背けたい現実から逃避できた。 物語の中に浸っていれば、自分が主人公となり、なりたいものになれた。 時には探偵だったり、医者になったり、大学生になったり、女優になったり。 自分の気分によって幾多の物語を読んだ。それはそれは沢山の人物になれた。 例え嫌なことがあったとしても、 物語の空想の中に入ってしまえば、人見知りなんかせずに誰とでも自由に話したり出来たし、自分が嫌いだったことや現実を思い出したりすることは一度もなかった。 小説の中、物語の中はいつしか私にとって生きる場所になった。 そして、常に時間のある時はもちろん、電車に乗っている時、夕飯を食べた後、寝る前、 お風呂に入っている時でさえ、本を手放すことはなくなった。 家族からは「本なんて読んでも何の意味もない。もっとほかのことに目を向けなさい。」そう言われたが、そんなことは聞く気もなかった。
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