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…そっか、そうなんだ。
この人にとっては、何もかもが軽いんだ。
恋愛なんかその筆頭格で。
そんなことで傷つく方がおかしいって、
きっとそう思っているのだろう。
トントンと後ろから昂さんが背中を叩く。
慌てて私は足を進めたが、
席に着く前にまた、圭くんに遮られた。
「俺、先週このホテルで挙式したんだ。
相手が妊娠してさ、ほんと失敗したよ。
って、もしかしてその人、彼氏?」
圭くんが誰なのか分からないまま、
昂さんは自己紹介を始めた。
「はい、芹香の婚約者で米田といいます。
あ、ご結婚おめでとうございます」
「う~ん。あんまり目出度くないけど。
正直、まだまだしたくなかったんだよな。
どうしても相手が産むってゴネるからさ」
その後も圭くんはペラペラと喋り続ける。
披露宴の際に奥さんが忘れ物をし、
それを1人で受け取りに来たのだと。
奥さんになった女性は、
長年同棲していた彼女ではなく、
逆ナンされて数回会っただけの、
女子大生なのだそうだ。
最後まで私は愛想笑いを浮かべ、
彼が去った後、胸を撫で下ろす。
…良かった。
あの時、関係を続けていたら、
私が圭くんと結婚していたかもしれない。
その場限りの甘い言葉に騙され、
愛の無い結婚をして、
そしてすぐに破綻しただろう。
事情を把握できず、
困った顔をする昂さんの前で、
私は繰り返し『良かった』と呟いた。
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