第一章 始まりの館

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「どうしてここにいるの? その制服、隣町の学校でしょ」 あぁ、やっぱり隣町だったんだ、ここ。 「……とにかく、家においで。君を見なかったことにはできない」 うち? 「立てる? 肩、かすから。がんばって。すぐそこだから」 その人は俺の右腕をひっぱると、自身の肩へと回した。傘を右手に持ち替えて、左手を俺の脇下にいれて思い切りひっぱる。 俺も力を振り絞って、足に力を入れた。なんとか立てた。 「よしよし。來香! 來香ー!」 彼は“くりか”と雪の中に叫んだ。珍しい名前だから犬かと思えば 「南槻様、ここです」 人だった。青年は“なつき”というようだ。少し後ろの方からやってきた彼女の声音は冷たい。 「彼を連れて行く。左側、持ってあげて」 「……高校生、ですか?」 「あぁ。ここに置いていくわけにはいかないよ」 「……はい」 彼女が俺と塀の間に割入り、彼は俺の右側を支えた。 「買い物の帰りに、思わぬ拾いものだね」 彼がそう言うのを聞きながら、俺たち三人は雪の中を歩いた。
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