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「またな」
貴志が言った。
「またね」
雪が言った。
博多駅の新幹線のプラットホーム。
俺は、また一人、街を出る。
きっと、もう二度とこの街に戻る事はない。
この場所には、何もない。
自分の居場所は愚か、何一つの未練も、希望もない。
「健人。今度、遠出で遊びに行って良いか?」
貴志が俺に聞く。
「気を付けろよ。お前、福岡から鹿児島だぞ?」
俺の茶化す様にた言う俺に雪が貴志の方を見ながらこたえる。
「大丈夫よ。私が隣で貴志が居眠りしない様に、他の車を煽らない様に見張っているから」
「そんなん言うなら、雪も取れよ免許」
「バカ。余計なこと言うなよ。雪は俺の車に乗ってりゃ、免許なんて必要ねえの」
貴志は、微笑みかける雪の顔を一別した後、俺を恨めしそうな目で見た。
「悪い悪い。……あっ、ごめん、雪。餞別に、コーヒー買って来て、」
「良いよ。健人はブラックだったよね」
「あぁ、悪いな」
新幹線の出発時刻まで、後5分。
俺は貴志に今日この日にやっと、今まで言えなかった事実を告白する事を決意した。
「俺の婚約者をパシるなよ」
「悪い。でも、雪は俺の親友でもあるんだぜ」
「……恨むぞ」
「恨め。悪かった。でもよ、嘘じゃねえから、俺を信じろ」
「はあ?」
一生、言い訳しないつもりだった。
言い訳じゃなくても、言い訳の様にしか語れないから、一生告げるつもりがなかった。
でも、今なら言える。
言って、それを証明してみせるし、それと向き合える。
そう確信出来たから。
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