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「俺、雪と寝たけど。雪を抱いたりしてねえ。裏切って悪かった」
俺がそれを告げた瞬間、貴志は目を見開いたまま、呆然と立ち尽くした。
まるで、抜け殻になった様に。
「雪は好きだけど、抱ける訳ないだろ? お前が雪を好きなの知ってて。雪がお前を好きなの知ってて……。それに、何より俺にとって、ひなこもゆきも同じだ。 違わねぇ。綺麗だから、汚したくないって思った。俺は、雪を抱いてない」
「……」
貴志は黙ったまま立ち尽くし、コーヒーを買って戻って来た雪が首を傾げる横で、結局最後まで呆けたままだった。
「どうしたの? 貴志」
「さあ? それより、雪、コーヒーくれよ」
「あっ、ごめんごめん」
雪が手渡すコーヒーを受け取り、出発のベルが鳴るのを聞きながら新幹線に乗り込み、手を振った。
雪が呆けたままの貴志を気にしつつ、俺に手を振る。
「またね、健人」
「……ばいばい。貴志、雪」
新幹線のドアが閉まり、ゆっくりと動き出す。
俺がドア越しに見守る事が出来た二人の最後の姿は、呆然と立ち尽くす貴志がその場にしゃがみ込んで顔を覆っている所を、雪が狼狽えながら貴志の背中をさすってやったところまでだった。
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