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最後だけ、少し聞き取りづらかったが、おそらくいつものように、またね、と告げたのだろうと、自分勝手に解釈する。
本当は、彼女の口の動きでなんとなく分かっていたのに。
彼女の最後の言葉。
「また“会いに行くから”ね。」
その言葉を紡いだ彼女の真っ赤な唇が頭から離れなくて、頭を振ってそれを必死に否定する。
ふざけるな。もう二度と会うつもりなんてない。
また、なんてないんだ。
それから、なんとか彼女から逃げることができた僕は、仕事も辞め、全く知らない土地で新しい生活を始めた。
この不景気にも関わらず、運良く働き口を見つけることもでき、以前よりささやかではあったが、誰にも干渉されない生活を送ることができていた。
それだけが救いだった。
贅沢なんてできない。でもやっと、前のような落ち着いた生活が送れる。
そう思っていたのに。それだけで良かったのに。
どうしてこんなにも上手くいかないのだろう。
いや、きっと。彼女に出会ってしまったことが、僕にとっての間違いで。全て狂わされてしまったのかもしれない。
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