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「こんばんは。」
もう二度と聞くことはないと、もう二度と聞きたくないと、強く願った声がした。
いつも通り家に帰ると家の鍵が開いていて、もしかしたら朝閉め忘れたのかもしれないと急いで中に入ると、そこには正座をしながら微笑む彼女がいた。
・・・・・・僕は、彼女から逃げることなんてできなかったんだ。
そう思うと力が抜けて、玄関にしゃがみこんでしまった。
自然と体が震える。
「何も言わずに引っ越すなんて酷いわ。随分探したのよ?
でも見つかって良かった。」
僕が逃げ出したことなんてまるでなかったかのように、今までと変わらず微笑みながら話しかけてくる彼女。
もう、彼女の口から発する言葉を聞きたくないと、そう強く願っているのに、耳は彼女の声を遮断してはくれない。
それだけではなく。彼女の言葉がなんとなく予想できる自分がいた。
どうして僕なんだ。
そう問いたくても、恐怖で震える体からは声など出なかった。
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