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画面に目をやると、お兄さんが家族の大切さについて、何やら熱く説いていた。
さっきからこんなのばかりだ。
妙に説教臭くて、それでいてまどろっこしい。
近づいてくるのに、いつまでも遠いままだ。
テレビの奥に置いてある写真が、鈍く光った気がした。
写真の中の父は、いつも笑っていた。
僕を抱きかかえる母の隣で、優しく、陽だまりのように微笑んでいる父は、まるで太陽のように見えた。笑顔の父しか、僕は見たことがなかった。
父は見事なまでのつるっ禿だった。
僕が生まれる少し前から癌になって、その時に全部抜けてしまったらしい。
容器を傾けて、残っているプリンをスプーンで一気に流し込んだ。
母は一人で僕を育てるために、ずっと働き詰めだった。
寝るのは僕よりも遅く、起きるのは僕よりもずっと早い。
家にいることの方が少なく、ここ最近は、会話らしい会話をしていない。それどころか、顔すらろくに見ていない気がする。
思い出そうにも、しわのないきれいな姿が目に焼きついて離れない。
記憶の中の華奢な体で、そんな重労働が勤まるのか、と僕はぼんやりと思った。
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