3

2/6
前へ
/22ページ
次へ
画面に目をやると、お兄さんが家族の大切さについて、何やら熱く説いていた。 さっきからこんなのばかりだ。 妙に説教臭くて、それでいてまどろっこしい。 近づいてくるのに、いつまでも遠いままだ。 テレビの奥に置いてある写真が、鈍く光った気がした。 写真の中の父は、いつも笑っていた。 僕を抱きかかえる母の隣で、優しく、陽だまりのように微笑んでいる父は、まるで太陽のように見えた。笑顔の父しか、僕は見たことがなかった。 父は見事なまでのつるっ禿だった。 僕が生まれる少し前から癌になって、その時に全部抜けてしまったらしい。 容器を傾けて、残っているプリンをスプーンで一気に流し込んだ。 母は一人で僕を育てるために、ずっと働き詰めだった。 寝るのは僕よりも遅く、起きるのは僕よりもずっと早い。 家にいることの方が少なく、ここ最近は、会話らしい会話をしていない。それどころか、顔すらろくに見ていない気がする。 思い出そうにも、しわのないきれいな姿が目に焼きついて離れない。 記憶の中の華奢な体で、そんな重労働が勤まるのか、と僕はぼんやりと思った。
/22ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加