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テレビはいつの間にか野球中継に変わっていた。
グラウンドで汗を流して白球を追いかけている選手たちが、やけに遠く感じる。
右手で軽い握りこぶしを作って、それを左の手のひらにバスバスと当て込んだ。
何度か繰り返すと、左手が右手を上手く包み込むちょうどいいポイントが見つかった。
丸刈り頭がクラスで喋っていたとこを意識しながら、リズム良く繰り返す。
やっているうちに段々と手が痺れてきて、じんわりと熱を帯びだした。
ビリビリと伝わる腕の痛みは、ただ、虚しさだけを刻みつけた。
ソファに座り、ハッ、と息を吐く。
試合は0対0のまま、回だけを進めている。
視線の先にある父の笑顔が、いつもより遠く、痛々しく感じられた。
父は昔、野球部だったと母は言っていた。
僕とキャッチボールをするのが夢で、誕生日プレゼントにグローブを買おうと繰り返し呟いては、病院で笑っていたそうだ。
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