0人が本棚に入れています
本棚に追加
話を聞いたとき、僕はグローブよりもゲームが欲しい、とごねたような気がする。
母は「はいはい」と笑いながら、僕の頭を優しく撫でて、そのまま抱きしめた。
その結果、倉庫には今も僕の手には大きすぎるグローブが、一人で眠ったままでいる。
「……」
母の話は、いつも決まって父のことだった。
そのせいか、僕は母のこともよく知らなかった。家族というピースが、僕には決定的に欠けているような気がした。
母は、僕のことを知っているのだろうか。考えて、やめた。
そんなこと考えたって、どうにもならないことだ。
玄関の鍵を開けて、外に出る。何となく、今日は家の中にいたくなかった。
辺りはすっかり暗くなって、昼間と同じ格好だと若干冷える。
それでも、家の中にいるよりはマシだった。
裏口に回り、倉庫へと向かう。
普段はほとんど使わないから、戸の部分が若干錆びついていた。
力いっぱい引っ張ると、手にじんわりとした感触が広がる。
もう一度引っ張ると、ギギギ、と鈍い音がした。
もう一度。ギギギ、ギギ、ギギ、ギギギ。
最初のコメントを投稿しよう!