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今まで使っていたテーブルと椅子が消され、黒の空間に白い扉が現れる。
おれは神に促されて扉の前へ。
「ここで一旦お別れです。心の準備、といっても扉を開けくぐればすぐですから、心配はいりません」
『別れる前に、あと一つだけお願いがあるんだけど……』
このお願いだけはおれの口からきちんと声に出して伝えたい。
断られるかもしれない内容なだけに、時間が経つほど緊張が増してくる。
おれは軽く唇を湿らせ、意を決し、神の目を見つめ口を開く。
「なま、え……教、えて欲し、い」
言いきると緊張してた分達成感が湧いた。
が、穏やかだった神の表情が悲しげなものに変化していた。
やっぱり図々し過ぎた?
嫌われる前に撤回しなくちゃ。
再び開きかけた口を神の言葉が止める。
「すみません。私には教えたくとも名がないのです。複数存在する世界神とは違い、唯一神ですので」
「ならっ、……おれ、だけの……呼び名。決め、てもい……?」
拒否された訳ではないことに、勢いづいたおれの提案は笑顔で受理された。
「お願いします」
それからおれは期待に応えるため、少ない知恵を絞り考える。
創世神、神、God、白髪……優しくて、おじいちゃんみたいで、だから――
「また、ね。……ジィちゃん!」
扉を開け、振り返り、神を考えた愛称で呼ぶ。
何か返される前にくぐってしまう。
おれは言い逃げをした。
笑顔を向けたつもりだけど、上手く笑えていただろうか。
神である『G』odとお『じい』ちゃんを連想させた言動から――『ジィ』ちゃん。
悪くないよね?
残された神が笑顔であるように願い、おれの意識はそこで途切れた。
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