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 拝啓、父さん、母さん。  僕は今、恐らく夢の中にいます。  僕はつい先程、目を覚ましました。目を開けると、見えたのは見慣れた部屋の天井でも、よく行く喫茶店の席でもなく、沢山の草。無造作に草が生えた、いわゆる草むらの中に、僕は横になっていました。  横になっていても草が邪魔なので、とりあえず立ち上がって辺りを見回せば、そこは見覚えのない、けれど自然溢れる場所でした。誰かに童話の世界と言われても疑わないほど、平和そうな空気に包まれています。  ……冷静になって一つ言うなら、全く見たことのない、知らない場所にいるというのは恐ろしいのですけど。というか、人の顔をした大樹の……口(?)から、水がざあざあと流れ出している、という光景もなかなかにパンチが強いです。  ……ただ。ここまでは、ここまでは百歩譲っていいんです。  「……あれ? やっ君? 記虎柔人(きとらやすと)、君?」  後ろから聞こえた、少し高めの、恐らく女性の声。僕には確かに聞き覚えがあった。そして何より、自分の名前を呼ばれたら、条件反射が起こるもので。僕は無意識に声の方へ振り向く。振り向いた先に、確かに人の姿がある――ということまで認識した、その瞬間。  僕の目の前で、人が恐竜っぽいロボット――分かる人に言うなら、まさに「ワギャン」の姿になった瞬間を見てしまいました。これを夢と言わずに何と言えばいいのですか。
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