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眼球というのは、脳みそと同じだと聞いたことがある。 それだけ、神経が細かく密集しているのだと。 失明とはちがって、眼球を両方ともくり抜いたら、人は死んでしまうのだろうか。 義眼というものは作りものの世界でしか聞いたことがないが、それが可能ならたとえ目がなくても人は生きていけることになる。 脳みそを失った人間が生きていけることと同義なのだろうか。 そんなことを考え出したのはいつが最初だっただろう。 彼女に出会ったのは高校に入学してからだったけれど、あの時にはもう眼球への好奇心は思いのほか強かった。 「獄中で、食事用の箸を両目に刺して死んだ囚人がいるらしいよ」 そんな話を給食の最中にしてきたのは、クラスの女友達だった。中学の頃だった。 真顔でそんなことを食事をしながら話せる彼女にも、ほんの少しの興味はあったが、彼女の瞳には興味が湧かなかった。 もっと透き通っていて、思わずうっとりと溜め息が出るようなものがいい。 高校に入学して、高峰ひかるという名の彼女がクラスにいるのは知っていたけれど、ちゃんと顔を見たのが少し後だった。 どうしてすぐに気付かなかったのだろう。彼女の両目が、片方ずつ違う色をしていたことに。 あんなに透き通った色の瞳を見たのは、初めてだった。 「高峰さんって、オッドアイなんだね」 放課後、たまたま教室に彼女が残っているのに出くわしたことがあった。 僕は無意識に、そう声を掛けていたような気がする。自分からクラスの女子に話し掛けるなんてことをするようなタイプじゃなかったのに。 「…知ってるんだ」 「え?」 少しの間のあと、彼女がそう答えた。 「オッドアイって言葉。知っている人に会ったのは初めて」 「あぁ、…たまたまだよ。珍しいんだよね。先天性なの?」 「うん」 彼女は長めの前髪に眼鏡を掛けて、その美しい瞳をいつも隠している子だった。 その目のせいで、いじめられたことがあったのだろうか。 「視力にはなんの問題もないの。ただ、じろじろ見られるのが、我慢ならなくて」 それが目を隠している理由だと、彼女は言っているようだった。 言葉少なであまり笑わない彼女は、僕と同じく陰気な空気を醸していた。それが人を寄せ付けないための自己防衛方法なのかは、なんだか聞いてはいけない気がしていた。
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