ひとくい

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「そういきり立たないで、梓さん。僕も君と同じ“政府の犬”をしている身さ。でもまあ、政府の考えに共感しているところが君とは違うかな。クロノスが血筋によらず真王を見出すことを目的としているなら、我々は、現行の政治が正しく、皇族を国の頂点と考える、保守尊皇派と呼ぶべき存在だ。だから君も、そうあるべきだ。あるべきところに帰るんだ、梓」 「嫌よ!何を考えているのよ、あなたたちは。私がどれだけ迷惑しているか、わからないの?」 「迷惑?確かに君は、クロノス(母親)をはじめ、多くの人間に見捨てられ、迷惑をかけられてきた。でもそんな君をずっと大事に育んでくれていたのは誰?今は忘れているだろうけれど、直に思い出すだろう。僕たちが、何者なのか。まあ、たてまえはよそう。僕は、政府などに忠誠を誓ったことは一度としてない。僕が忠誠を誓うとすれば、梓、君だけだ」 「わけのわからないことを言わないで!あなたさっき、政府の考えに共感しているって言ったじゃないの。あなたの言葉には矛盾だらけで真実なんて一つもないじゃない」 「確かに政府の考えには共感している。尊皇の考えにはね。だって、それは他ならぬ君を大事にすることだもの」 「はあ?何を言って…」 「梓、君はね、皇族なんだよ。陰謀により廃位され歴史上から抹消された天皇、その直系の血族、由緒正しい世界の主、それが、君なんだよ」 「何よそれ…わけがわからない…」 「クロノスが己を神の子の母という地位に位置づけ世界を手中におさめようと考えた所以はそこにある。ある意味、梓、君がすべての元凶(はじまり)だったんだよ」 「そんな…」 梓はそう言ってくずおれる。 杉浦はそんな梓をいたわったが、嘘だと言ってほしくて梓が向けた視線に気付いても何も言わなかった。
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