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東亜仁徳大学の留学生がパックマンとして逮捕され、“脚本家”も筆を折ったことで、パックマン達はパックマンを演じられなくなり、事件は一応の決着をみた。
しかし、この事件に関わったことで梓が負った心の傷は、深く治癒の難しいものだった。
梓はあれから一月もの間、部屋に篭って思案を繰り返していた。
人を殺すことに何の抵抗ももたないものがこの世に何人いるかは知らないが、身近にこれだけいるのだ、破壊的な数字にのぼるだろう。
その筆頭が国家や政府であるなら、逃れる術などない。
自分は、己を英雄だとは思わないまでも、悪人であるとは思っていなかった。
普通の、良民だと信じていた。
それが、何だ。
自分は、上層で力をふるっていたかもしれない身の上であり、血筋からしても皇族の血縁で上に立つべき存在にあるなど、知りたくないことばかりが耳に入ってくる。
いや、自分はずっと、そうであると指し示すものから逃げてきたのではないか。
醜い己を認めたくがないために。
梓はそう思いいたる度に深く涙した。
その身はやせ細り、愛嬌のある丸みをおびた顔は、死期がせまるもののように生気なく沈んだ表情になってしまっていた。
部屋に食事を運ぶ度にその姿を目にした杉浦は心を痛めたが、運命を代わってやることは誰にもできない。
梓自身に乗り越えてもらうしかない。
それに自分は、慰めてやれるほどの人格者でもない。
杉浦はそう思って悔しさに唇をかみしめた。
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