あんめん

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「あなたは、クロノスの側近ではなかったの?」 梓が怪訝な顔をして問う。 「クロノスに、若く美しい肉体を与える代わりに側近になれと言われてね。しかし、“日輪”として活動してはいけないとも言われなかったからね」 そう言って微笑し、斎は言葉を続ける。 「鹿野と君は兄弟のように育ち、恋仲にまでなった身なんだよ。覚えていないかい?好いた人物が犯罪者であるという因果は、彼との関わりから始まったのかもしれないね。それでも君は、杉浦君の側にいられるかい?君が側にいれば、犯罪者でなくても犯罪者になる。そう考えが至ったことは?」 梓は何もこたえられなかった。 「君たちは、クロノスの率いている組織の名前すら知らないだろう。そんな、真実を何一つ知らない人間に、この世の中が正せるかな?答えは、否だ。だったら梓、君が進むべき道は、こちらにある。そうは思わないか?」 「やめて!もう何も言わないで!」 梓はそう言って両手で耳をふさいでしゃがみこむ。 「それはできない。我々は君を苦しめたいわけじゃない。今君が苦しんでいるのは、我々が間違っていると思っているからじゃないことは君も分かっているだろう。こうして君が苦しんでいるのを黙って見ているようなそこの男に君を守れるとは思えない。君は、こちら側の人間なのではなくて、こちら側の人間にしか守れない、高貴で力のある人間なんだ。我々が犯罪者だからと言って、君が犯罪者になる必要はない。君は君の信じる道を、正義をつらぬけばいい。それを、我々の中心でしてくれないかと我々は頼んでいるんだよ。悪の組織を中心から解体させる、そういう目的でもって我々に荷担するというのはどうだろう、と」 「梓がそんな詭弁にのると思うのか?」 杉浦が息巻く。 「私は、梓にきいている。お前など、本来ここで生きている存在ではなかったのだ。それを生かしてやっていた、我々や梓に感謝する気持ちを少しでもいだいたらどうだ?」 「何を…」 杉浦が言いかけると、梓がそれを制して言った。 「クロノスの実態を教えて。あなた達が私に従う身であるなら、それを証明しなさい」 梓の言葉に、斎は笑顔でこたえて言う。
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