かみのこ

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“日輪”の前身たる名も無き組織は、名目上は政府の闇をはらうことを目的としている組織だった。 そんな組織の中で、斎は梓の監督官をしていた。 父親役と言ってもいい。 それは実際正しく、斎の脳は梓の本当の父親のものだと梓は直感する。 梓がそれを斎に告げると、彼は微笑して言った。 「私は、神の子を授かるという聖霊の予言を受け、才女と呼ばれるものと片端から子供をもうけた。そして私は、梓、君を授かった。しかし、それがある意味私の人生を狂わせた。我が子としてではなく、こうして血のつながらない第三者として見てみると、君はなかなか魅力のある人間だと気がついたのだ。その機会をくれた京子(クロノス)には感謝さえしている。そして私は、君を誰にも渡したくないと思うようになった。私たちの始祖たる廃位されし天皇は、そんな闇を抱えていたが故に追放されたのかもしれない。私はきっとその血を色濃く受け継いだのだ。私はそう思うことですべての罪から逃れんとしてきた。しかし梓、君は、すべてと向きあおうとした。それは強さとも言えるかもしれないが、同時に弱さでもある。君はまだ偽善の域を出ていない。自覚しているだろうが」 「そうですね。真の善が偽善の先にあるなら、間違った道を歩んでいるとは言いきれない。でも、真の善は偽善と地続きではないみたい。私は、一からまた始めなければ。私が記憶を失ってきたのは、自分の意志だったんですね」 斎は梓の言葉を肯定するように深く笑んだ。 「私という人格はここで終わり。私は次にバトンをつなげなければ」 梓が言うと、その目を真っすぐ見据える斎の目にわずかに悲しみが浮かぶ。 「お父さん。私は、あなたのしてきたことを正しいとは認められない人間だけれど、愛してくれたことには感謝してる。ありがとう。そして…」 さようなら。 その言葉を飲み込んで、梓はその意思を自ら消し去った。
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