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翌日、梓は登校中、紀井翔太が女子生徒となかむつまじく歩いている姿を目撃する。
「美樹ちゃん、おはよう」
十海がそう言って後ろから駆け寄ってくる。
しかし、紀井の姿を見つけると、これはまずい、と言うように梓を見る。
「あ、気を使わなくて大丈夫だから。彼のことは何とも…」
「私、生徒会長の権限で紀井君と直接話せる機会をつくってあげるから、あの子が彼女なのかどうかはっきりききなよ。その方が絶対いいって」
「え、いや…」
しかし十海には有無を言わせぬものがあった。
高校生のこの手の熱さには覚えがあるが、梓にははるか昔のことなので、ついていけずに思わず生返事をしてしまった。
そのことが災いし、梓は紀井との二人きりをセッティングされてしまう。
「塚本さん、何?」
学校の屋上に呼び出された紀井が不快そうな顔で梓に問う。
「いや、あの…」
「実は、三笠さんから聞いているんだ。僕は、君の気持ちにはこたえられない」
「あ、そう…。じゃあ、私、帰るね」
「ひどいじゃない、紀井くん!」
そう言って隠れて見ていた十海が割って入る。
「いいのよ、三笠さん。私、別に…」
「これで引き下がるの?気持ちを伝えれば心がわりしてくれるかもしれないじゃない」
これで引き下がるの、という言葉に、梓は、確かに、と思った。
これは、“死神”かもしれない紀井を聴取する格好の機会ではないか。
「紀井くん、私の気持ちにこたえられないのは、彼女がいるから?」
「そうだよ」
梓の問いに紀井はきっぱりそう答える。
「それだけじゃない。君は、僕に嘘をついている」
「嘘って?」
「二十歳をすぎた大の大人が、ここで何をしているの?」
「え?」
梓と十海が同時に素っ頓狂な声をあげる。
「君の言動をみていればわかる。他の皆はだませても、僕はだませないよ。一体この学校で何をする気なの?“死神”は、君のことだろ?」
「え?ええっ?」
あまりのことに梓が目を白黒させていると、梓の後ろから、その首にカッターの刃があてがわれる。
その主は、十海だった。
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