しにがみ

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「全くひるまないんだね、君は」 杉浦がそう言って紀井を見据える。 「こうなることは常に考えていたからね。十海が馬鹿をすることくらいわかっていた。けど、こういう馬鹿は使い勝手がいいのも事実だ。この世界の支配者は、どれだけの馬鹿を従えられるかで決まる。己以外は皆馬鹿なのだから、馬鹿の使い方ができなければ何も始められない。でも、僕に勝ったとは思わないことだ。僕はこの世界の真の支配者だ。僕だけがこの世界を正せる。その僕が死ぬことですべてが終わり、すべてが始まる。僕は、神話になるんだ。神になるんだ」 紀井はそう言って杉浦たちの方を見ながら屋上のふちに立つ。 そんな紀井に杉浦が答える。 「じゃあ、先に俺が行ってやるよ。俺の死に様をみてもなお死ねるっていうなら、認めてやる」 何を言っているのだろう、と梓が思う間もなく、杉浦は屋上から飛び降りる。 「杉浦さん!」 梓が思わずそう叫んで屋上のふちから下を見下ろすと、そこには、うつぶせで倒れる十海のそばで、脳髄を撒き散らせ、手足をあらぬ方向に曲げた姿の杉浦がいた。 その目はぎらぎらと光って呆然と見下ろす紀井を睨みつけていた。 「ひいい!」 紀井は、その様に恐れをなして逃げ去った。
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