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「私は魔王をまだ倒してない!!」
彼女はそう叫ぶと、剣を激しく振り下ろした。ものすごい轟音とともにベットの隣に置いてあったタンスが粉砕する。剣はタンスに触れていない・・衝撃波だけで粉々にしたのだ。人間業じゃないその行為に俺は呆然とする。
え・・何?この人・・本物の方ですか?そんなの聞いてないんですけど・・あーそうですか!ゲームの世界から転生してきたんですか。何だその漫画な展開は・・
「いやーそうそうまだ倒してないよねー。もうそろそろ魔王を倒すはずだともっぱらの評判で・・ワルキューレさんなら絶対やってくれるって近所で噂になってるんですよ!いやー俺ってなんか早とちりしちゃった」
俺は自分の命が大事である。目の前に起こっていることが説明のつかないことであろうが、ゲームのキャラクターが俺の家のタンスを粉砕しようが、どんな状況であれ俺は死にたくない。生き残るためには自分の常識などゴミ箱にポイである。
「そうか・・マーベルランドのみんなは・・私が魔王を倒すのを待ってくれてるんだよね・・」
苦し紛れに言った俺の言葉が奇跡的にもワルキューレの心を打ったようだ。
ワルキューレは何か重要なことを決心したように目を輝かし前を向く。そして一言発する。
「よし!魔王の元へ戻って今度は必ず奴を倒す!」
「さすがはワルキューレ!君ならできるよ!頑張って!」
他人事なので俺はそんな彼女の決心を軽く応援する。
そんなワルキューレはキョロキョロと周りを見渡し、人の家の押入れを勝手に開き中を確認する。そしてトイレ、風呂場とドアを開けて周り最後にはベランダに出てその景色を呆然と眺めて一言・・
「ここはどこだ?どうやって帰ればいいんだ?」
本当にゲームの世界から来たならそりゃーそーなるよね。帰り方はわからないけどとりあえず場所を教えてあげる。
「ワルキューレ。ここは東京だよ」
ワルキューレは俺の方を振り向いた。意外にも彼女は迷子の子猫のように悲しい顔をしていた。さっきまでの険しい表情からのギャップだろうか・・俺の胸がキュンと少し熱くなる。
「東京とはどこだウキタミチナガ!アファ大陸・・いやフルータジアの南部か?それともマッコウ大陸の・・」
「違うよ・・ここは現実世界なんだワルキューレ」
「何だその現実世界とは?」
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