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「いーーーやーーー! 降ろしてくれーーー!!」
オレの悲鳴が車内に響いた。
今日は彼女と楽しいデートだったはず。
うらやましいか?
それは、彼女のことを知らないから言えるんだよ。
「大丈夫! 助手席の人がすやすや眠ってしまう運転を心がけますん、今日は」
彼女はドヤ顔で言った。
「『今日は』って何だ、『今日は』って!」
オレはシートベルトを外そうと必死で金具をガチャガチャ動かした。
やはりオレがハンドルを握るべきだった。
「ダ・メ・だ・よ、シートベルト外しちゃ」
彼女の手がオレの手を優しく包む。
その温もりに、つい何でも許してしまいそうになるが。
「マジで頼む! 降ろしてくれ!!」
オレは彼女の手をふりほどき、シートベルトの金具との格闘を再開した。
「いつぞやUターンしたことがあってね。その時の彼氏が」
彼女がおもむろに言う。
運転中の危険な失敗談。
俗に言う「武勇伝」ってやつだ。
「聞きたくない聞きたくない!」
オレは必死に叫んだが、車はスピードを緩めることなく走り続けた。
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