またね

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あいつは『またね』と耳元で囁いた。 長い自慢の黒髪を振り乱し、狂気の色を浮かべた目はうっとりと潤んでいた。甘い囁きとは裏腹に、白くて繊細な指が首に絡みついて、圧力を増す。 ぐっと喉の奥が鳴った。指一本動かせない体が衝撃で一度跳ねる。 目の前に居る女は何故こんなことをするのだろう。浮かぶ疑問に答えてくれる者は居ない。 今日初めて会ったこの女は、所謂合コンという飲み会で顔を合わせた。口下手な俺を何くれとなく構い、意気投合した。 散々飲まされたような気がする。気が付けばホテルのベッドに寝かされ、衣類は剥ぎ取られ体が拘束されていた。 そんな俺を、うっとりと見つめる女が一人。 半ばパニックに陥る俺の首に指を掛け、いきなり力を込めたのだ。 意識が朦朧とし始める。目の前が白い靄で覆われて行く。 ーーこのまま死ぬのだろうか。 『大丈夫、直ぐにまた会えるから』 歌うように囁く声を聞きながら、俺は頭の中に流れる走馬灯のような映像を眺めていた。 『・・・ど、どう・・・してっ?』 絞り出すように訊ねた分だけ力が込められた。 ああっ・・・もうダメだ。逃げられないのだと、改めて悟った。 目尻に浮かんだ涙がツーと頬を伝った。 喘ぐ口元が柔らかな何かに包まれたような気がしたのを最期に、俺は意識を失った。
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