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ましてや、ただ巻き込まれるだけではなくて、巻き込まれたが最後、春一は全部ひとりで背負い込む。
誰にも何も言わず、たったひとりで片をつけようとする性分だ。
だから夏樹は、油断することが出来ない。
今回も家族に内緒で、何かを仕出かす気配でもあるのかと、
「おかしいって、春はどんな様子なんだ?」
重ねて聞けば、
「……妙に愛想がいい」
秋哉が、眉根を寄せて唇をひん曲げながら言う。
「朝から、すっげぇ笑ってるんだ」
「――は?」
春一は家族間では仏頂面がトレードマーク、とまでは言わないが、むやみやたらに愛想笑いを振りまくタイプではない。
それが弟たちの前でも上機嫌とくれば、考えられる理由はひとつだけで……、
「どーせ、アレが原因じゃねーの?」
夏樹はたちまち不機嫌な目付きで、鈴音の方を見やる。
鈴音は、ずーっとぼんやりしたまま突っ立っている。
手には意味不明のオタマ。
鈴音がああも魂を抜かれた状態になるなんて、原因はひとつしか考えられない。
夏樹は夕べ、家に帰っていない。
正直、女の子と遊んでいたのだから人のことは言えないが、つまりは、春一の隣の夏樹の部屋が、一晩中空いていたということになる。
その隙に、鈴音が春一の部屋に忍んでいったとしても、誰も気がつかない……。
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