春一の奇行

6/19
前へ
/20ページ
次へ
ところが、 「違うよ、鈴ちゃんは春兄の部屋には行ってない。それはボクが断固阻止した」 冬依が如才なく言うので、 「ああ、そう……」 夏樹は少しだけ春一に同情する。 弟たちの中では、冬依が一番、春一に厳しい。 冬依は、 「春兄がおかしいのは、鈴ちゃんにだけじゃないんだ。ボクたちにもだよ。ボクたちにも、全開の笑顔を向けてくるんだ」 「は!?」 その事実には夏樹も驚く。 鈴音相手ならいざ知らず、弟を相手に愛想を振りまいたって、意味がない。 それに第一、春一がそんな軽薄な振る舞いをするなんて信じられない。 弟たちの前では謹厳実直(慎み深く真面目であること)を誓っているような長兄で、弟たちの機嫌を取るなんて、春一が己の信念を曲げたとしか考えられない。 何を思ってそんなマネに出たのかは知らないが、春一が異常なことは確かだ。 その上冬依からは、 「ボクはもう、朝から気持ちが悪くてさ。吐き気が止まらないよ」 なんて言われている。
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!

70人が本棚に入れています
本棚に追加