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ところが、
「違うよ、鈴ちゃんは春兄の部屋には行ってない。それはボクが断固阻止した」
冬依が如才なく言うので、
「ああ、そう……」
夏樹は少しだけ春一に同情する。
弟たちの中では、冬依が一番、春一に厳しい。
冬依は、
「春兄がおかしいのは、鈴ちゃんにだけじゃないんだ。ボクたちにもだよ。ボクたちにも、全開の笑顔を向けてくるんだ」
「は!?」
その事実には夏樹も驚く。
鈴音相手ならいざ知らず、弟を相手に愛想を振りまいたって、意味がない。
それに第一、春一がそんな軽薄な振る舞いをするなんて信じられない。
弟たちの前では謹厳実直(慎み深く真面目であること)を誓っているような長兄で、弟たちの機嫌を取るなんて、春一が己の信念を曲げたとしか考えられない。
何を思ってそんなマネに出たのかは知らないが、春一が異常なことは確かだ。
その上冬依からは、
「ボクはもう、朝から気持ちが悪くてさ。吐き気が止まらないよ」
なんて言われている。
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