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シェーラは少し身を低くして、内緒話をするような体勢になりました。
「知ってる? 星の巫女の結婚が託宣で下ったのは、この国始まって以来なんだって」
「……」
その話ならアンナ様に耳にたこができるほど聞かされました。
ありえない事態です。だからこそ、この託宣は重要なのだと――
「何せ生まれる子どもが救世主になるっていう託宣でしょう? 国も注目するわけよ」
「…………」
わたくしは首を振りました。
「無理よ。わたくしは騎士ヴァイスとは結婚できない」
「あら、どうして?」
「どうしてって……」
「優良物件だと思うけどなあ~」
優良物件。仮にも国の英雄に対してなんたる表現。
シェーラは白い頬を少し紅潮させて、楽しげに言います。
「私はね、ヴァイス様いいと思うなあ。結婚したほうがいいよ絶対! アルテナ、きっと幸せになるわよ!」
「シェーラ……」
無邪気な友人の言葉に、わたくしは胸がきゅっと痛くなります。
シェーラはたぶん、本気でわたくしの幸せを願ってくれています。面白がっている気持ちも大いにあるのでしょうが、それだけでこんなに穏やかな瞳はできません。
実はあの託宣がくだって以降、いわれのない噂が人々の口にのぼるようになったのです。
いわく、あの巫女はヴァイス・フォーライクと結婚したいがために、存在しない託宣をでっちあげたのだ――
(でもシェーラは、そんな風に疑わない)
シェーラの美しい碧い目。それを見ると、わたくしは自分の幸せを祈ってくれる人がいることの幸福を思います。
そして同時に、申し訳なく思うのです。
――騎士ヴァイスを、すんなり受け入れられなかったことを。
(でも)
申し訳なく思うたび、蘇るのはあの日のこと。託宣のくだったあの日。
(……公衆の面前で『孕む』なんて言葉を平気で使って、おまけに、く、唇を……っ)
あれのおかげで、本来ならわたくしは修道院にいる資格を失っているのです。いえ、結婚しろという託宣なのですから、本当はすぐにでも修道院を出てフォーライク家へ嫁ぐ必要さえありました。それをわがままを言ってまだこの修道院に据え置いていただいているのですが……そのせいで騎士ヴァイスはこの修道院に日夜特攻してきて、今ではすっかり修道院の面白い催しものです。
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