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母さんに攻撃していたうちの一体が、俺に向かって来て、俺は振り上げられた手に、目をつむってしまった。殴られる?叩かれる?とにかく、痛いことが起こるのは確かだ、と。
でも、衝撃は来なくて。
目を開けたら、母さんの壁に阻まれて、壁に触れたソイツは、消えて行くところだった。
俺が触っても何も起きなかったけど、【何か】には何らかの作用があるみたいだ。
そして、俺も向こうに行けないけれど、【何か】もこちらには来れない。
「勇、聞き分けて。本当は、ずっと守ってあげたかったけれど……ごめんなさいね。私の力ではこれが限界みたい。勇、母さんが昔住んでいた町の話、覚えている?そこへ行きなさい。仲間がいるから」
仲間がいるのなら、どうして今、助けに来てくれないんだろう。
お願い、母さんを助けて。
どうして俺はこんなに無力なんだろう。
母さんを守る、って決めてたのに。何にもできない無力な子供な俺が、嫌だ。
「勇、行きなさい」
強く言われた言葉に、俺の身体は勝手に反応した。
足だけが、別の生き物になったみたいに、勝手に外へと動いて行く。
「嫌だ!母さん!」
精一杯身体をひねって、母さんを呼ぶ。
「幸せに生きなさい。あなたは独りじゃない」
足は勝手に動くから、焼き付けるように、母さんの顔を見たまま、俺は家の外へと出てしまう。
母さん、俺は母さんに言われたように、生きるから。
いつか父さんにも、会えるように頑張るから。
戦っていたのに、笑顔で俺を見てくれた母さんに、もう見えなくなってしまった母さんに誓うように。
俺は、母さんを守ることができなかったけど、もしこれから母さんの言う仲間に出逢えたら、その人たちを守れるように、強くなりたい。否、強く、なる。
「母さん、ありがとう」
きっと俺を勝手に動かしたのは、母さんの力。
あのままあの場にいたら、俺も死んでた。母さんも、俺を気にして戦いに集中できないで、傷がきっともっと増えてしまう。
振り返った時、【何か】に母さんの身体は貫かれてた。だから、これが最期なんだ。もう、会えない。もう、抱き締めてもらえない。
俺は、母さんに守られてばかりで、親孝行できないで終わってしまったんだ。
母さんの、最期の願い、絶対に叶える。
俺は、何があっても生きるんだ。
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