喪失

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さて。 気持ちを切り替えて次に向かわないと。 一人暮らしのおじいさん。電話の向こうで杖が、と叫んでいるが何を言ってるかわからないから回ってくれと事務所から連絡が入った。 (やれやれ、あのおじいさん愚痴が言いたくなると呼び付けるんだよね) 行かない訳にはいかない。100に近い彼の安否確認も兼ねている。 ため息一つついてライトをつけ、アクセルを踏み込む春海。 また雪が降ってきた。フロントガラスに雪。周りが真っ暗なので結晶がはっきり見える。 もう二ヶ月もすれば春。 桜が咲きはじめる。 舞い散るものが雪から桜へ変わっていく。 季節は巡っていく。 心も巡っていく。 誰もが幸せになれるといいのに。 春海はあっという間にフロントガラスを真っ白にした雪を、名残惜しげに眺めた後、思い切りワイパーで振り払った。 完
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