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初めて雪華と会ったのは病院での会議室。いきなり中国語でまくし立てながら春海の胸に飛び込んできた時、思わず抱きしめそうになった。儚げな、儚げすぎる印象。この人、夫が逝ってしまったら、後追いするんじゃないか。
病院でも周りの医療従事者達は同じように思っていることが退院カンファレンスの中で見て取れた。唯一の親戚という夫の姉に当たる人も、弟の事は最早諦めていて、寧ろ残される彼女を心配しているようだった。
春海の予想通り、夫の退院後も彼女は不安に苛まれた。毎日のようになる春海の社用携帯。時間の融通がつく限りは親身になって相談に乗っていたが、ベッド購入後、フッツリと音沙汰が無くなった。心には引っ掛かっていたが、日々の忙しさに取り紛れ徐々に思い出すことも無くなっていた矢先の電話だった。多分、と思い受話ボタンを押せば、予想通り過ぎて一瞬声が出なかった。
仕事だと割り切って訪れたが、ドアを開けた彼女を見たときは記憶の中の彼女よりも遥かにやつれた姿に心が揺れた。
(あんまり食べてないな、寝てもいない。何より、泣いてない)
「そうだ、肉まん。食べましょう」
いきなり思考中断される言葉に春海の心臓が跳ねる。
「嫌いですか?」
雪華が心配そうに春海の目を覗き込む。
「いいえ」
春海は元々の自分の顔で笑った。少しでも食べてくれるなら、元気がでるなら。彼女としては、あまり好きでは無い食べ物だけど。
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